Q: 山吹中の部長を務めている者です。最近、ウチの二年生のM君が、同じくウチの部員のSにいろいろな嘘を吹き込まれています。M君はだまされていることに気がつかない上、Sに全幅の信頼をおいているので、ヘタに口出しをしたら逆にこっちを信用してくれなくなる可能性もあり、かといってこのまま放っておいては、来年のテニス部が心配です。もはやイジメの領域かもしれません。もう僕にはどうしていいのかわかりません。たすけてください。 | |
A: ゆゆしき事態である。現場に急行する。 |
でっちあげ人生相談 アンリミテッドファイル in 山吹 |
内村: ‥‥とりあえずはじめまして、室町クン。おれ内村。まあ覚えなくてもいいけどな。不動峰の、同じ二年生だ。後ろにいるのは相方の森。じつはダブルスでアンタのとことあたってるんだけどね‥‥今日ここにおよばれした理由は部長から聞いてるかい? |
室町: いや、急だったもんで、なんも。‥‥なんなんスか、部長?早く部活いかないと千石さん応援できないじゃないですか。 |
南: ‥‥(内村に)すいません、言い出せませんでした‥‥ |
森: ‥‥(小声)いいづらいことだと思いますから‥‥お気持ちは‥‥よくあることですから、なんとかします。大丈夫です‥‥ |
内村: 最終的な解決はそちらでやってもらうんスけどね‥‥。 さて、今日は室町クンのお話を聞きにきたんだ。キミ自身の話じゃなくてもいいぜ。最近興味あることとか、そういうのを語ってくれてもいいや。どお? |
室町: いやー、まあ毎日部活でテニスだから‥‥。話すことっつっても、もうそればっかりで。不動峰とそんなかわんないとおもうスよー? |
内村: ま、そんなもんかもなぁ。同じ二年だから授業もなんも似たか寄ったかかもな。‥‥でもウチのテニス部ってけっこうイレギュラーでさ。実質今の部長が1人で作っちゃったみたいなもんなんだぜ‥‥あの人がいないとなんも始まらなかったね。なあ森? |
森: そうだよね。ホント橘さんいなかったらテニスどころか部活もできなかったし。よその部活いったことないから普通の部活ってどういうのかわかんないけど、室町くんのところもそう?南先輩にいろいろおそわってる?‥‥あ、でも室町くんシングルスだったよね、確か。シングルスでおそわるような先輩って、いる? |
室町: やっ、あのですね、実はひとりすっげー先輩がいるんすよ!テニスも超つよいし!物知りで!すっげ尊敬してるんスけどね! |
南: ‥‥(連係うめー‥‥) |
森: あ、もしかしてJr選抜の千石さん? |
室町: そっす!! |
内村: テニス強いってことはよく聞いてるけど、物知りってのは初耳だな。成績とかいいわけ? |
室町: んん、っつーかスねえ、勉強できるとかそういうんじゃなくて、知識が深いつーか!何でも知ってて!賢者系なんすよ! |
南: ‥‥(そんな職業、ねえ‥‥) |
室町: こないだもですね、俺保健体育の授業休んじゃって。赤ちゃんってコウノトリが運んでくるのかキャベツのなかから生まれてくるのかわかんなくってずーっとナゾだったんスけど、千石さんが「コウノトリが運んでくるキャベツに赤ちゃんが搭載されてるんだよ〜☆」って教えてくれて!一挙解決スよ!俺みたいに地黒なのは紫キャベツからうまれてくるらしいんスけどね! |
内村: ‥‥それはおれも知らなかったなあ。 |
室町: すごいっしょ!それからホラ、地球ってゾウさんが支えてるじゃないですか! |
内村: ‥‥支えてるねえ。 |
室町: あれって普通、大きなカメさんがいて、そのカメさんの上に無数のゾウさんがいるじゃないですか。で、そのうえに平らな地球がのってて。そんではじっこがすっげーでっかい滝になってるでしょ? |
内村: ‥‥なってるなってる。 |
室町: で、地球の脇にはすっげー大きな人がいて、その人が滝におちそうになった船とか、流氷にのっておちそうになったペンギンさんをすくってはもどしすくってはもどし!! |
内村: ‥‥すくってはもどしすくってはもどし。 |
室町: すくってはもどしすくってはもどし!!それで、たまにゾウさんとかが苦しくなってむずがると、そっと代わりにささえてちょっとのあいだ外で遊ばせてやったりするんですよ! |
内村: ‥‥やさしいんだね。 |
森: ‥‥‥‥やさしいね。 |
南: ‥‥ |
内村: ‥‥室町クン、ちょっといっぱいしゃべって疲れちゃっただろ。外いってジュースでも飲んでおいでよ。‥‥森も案内してもらっていってこい。あ、おれはいいから。 |
森: うん。じゃ、ちょっと室町くん、案内してくれる? |
室町: あ、すんませんス、じゃ、‥‥(退出) |
内村: (見届けてから) ‥‥なかなかすごい病巣抱えてるじゃねえか、山吹も。 |
南: ‥‥、‥‥知らなかったんです、こんなひどいとは思わな‥‥ |
内村: そりゃ室町クンとアンタは単なる先輩後輩だけどな。監督責任ってことばもあるんだぜ。 |
南: ‥‥、‥‥ホント‥‥知らなく、て‥‥ |
内村: 部の中で1人の少年がどんどんどんどん現実の枠を逸脱して、夢の中へ夢の中へ。 |
南: ‥‥、‥‥ |
内村: ペンギンさんをすくってはもどしすくってはもどし。 |
南: ‥‥、‥‥ ‥‥‥‥すくってません‥‥ |
内村: すくってない。何故だね? |
南: ‥‥世界の、はてに、巨人は、いないから‥‥ |
内村: 大きな人はいない、ね。じゃあ世界はゾウさんが支えてるかい? |
南: ‥‥、ささえて、ません‥‥ |
内村: そう。地球、丸いよね。じゃ、赤ちゃんはどこからくるの。 |
南: ‥‥、‥‥ |
内村: ちょっとセクハラだったね。でもいいか?アンタが今いったことは世界常識だよな。というか、事実だよな。‥‥科学的事実は、曲げようがないよな。 |
南: ‥‥ハイ‥‥ |
内村: ‥‥これからアンタが室町クンにしてやらなきゃなんないことは、結果的に室町クンの夢をブッ壊すことだ。‥‥つらいかもしれないし、ひどいとかいわれるかもしれんが、アンタにゃ世界がついてる。‥‥できるよな。 |
南: ‥‥、できます‥‥ |
内村: なにができるって‥‥? |
南: ‥‥夢、壊して、事実、伝えます‥‥ |
内村: そうだ。アンタがしないと誰もできないぜ。室町クン助けてやれるのは、アンタしかいねえ。やれるな? |
南: ‥‥、やります‥‥ |
内村: 約束だぜ。そうだな‥‥今日は一緒に帰るだろ?‥‥ここからなら、グラウンド通るな?じゃあ、あのグラウンドのまん中の、あの白い線越えたら、いうんだ。いいか、室町クンたすけてやれるのは? |
南: ‥‥、俺しか、いません‥‥ |
内村: そうだな。ちょっとホワイトアウトみたいだな。アンタしかいないよな。‥‥‥必ず、だ。 |
南: ‥‥、ハイ‥‥ |
(ドア、ノックされる) 森: はいりまーす。‥‥内村、結構時間たっちゃっみたいだから、そろそろおいとましないと。 |
室町: あ、ゴメン、ジュースおごってもらっちゃって。 |
森: また今度、冷蔵庫の中で電気消したりつけたりする小人さんの話聞かせてね。 |
室町: 閉じると見せかけてフェイントかけて閉めないようにすると見れるらしっすよ。オレもがんばってるんだけどね〜。 |
南: ‥‥、‥‥ |
内村: ‥‥白い線、忘れるなよ‥‥んじゃ、今日はどうもお邪魔しました。おれらちょっとココ残って書き物したいんですけど、開けて帰っちゃってもヘーキでしたよね?‥‥ども。じゃ、また、関東大会で。 |
南: ‥‥、今日はいろいろホント、ありがとうございました‥‥ (退出) |
(見送って) 内村: ‥‥。ま、後はあの部長次第、だな‥‥出だしで転ばなきゃ大丈夫だ。 |
森: ‥‥な、内村。室町くんさ、サンタさん、信じてたよ。 ‥‥僕ら、またサンタさん、殺したね‥‥ |
内村: ‥‥つらいか。 |
森: ‥‥ちょっと。‥‥いや、‥‥大丈夫。アハ、‥‥こっちが迷っちゃ、いけないよね‥‥ |
内村: ‥‥慣れなくていい。 ‥‥‥そろそろ、かな。窓の外、見ててみろよ。ちゃんとわかってくれたんなら、あの部長も動くぜ。サンタの死ぬ瞬間だ。しっかりみとけ。んで、吉牛よって帰ろうぜ‥‥。 |